金沢地方裁判所 昭和42年(ヨ)74号 決定 1967年4月20日
申請人 大野修
<ほか二名>
右三名代理人弁護士 梨木作次郎
豊田誠
吉田隆行
被申請人 学校法人金城高等学校
右代表者理事長 加藤晃
右代理人弁護士 菅井俊明
主文
一、本案判決確定に至る迄
被申請人が申請人らに対し昭和四二年四月一日付でなした休職処分の効力を仮に停止する。
被申請人は申請人らに対し右同日以降毎月二一日限り別表記載の金員を仮に支払え。
一、申請費用は被申請人の負担とする。
理由
当事者間に争いのない事実と疎明資料によって認めた事実関係ならびにこれに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
一、本件紛争に至った経過
被申請人は金城高等学校を経営する学校法人であり、申請人らはいずれも被申請人に雇傭され右学校に教諭として勤務し別表記載の給与を受けていたところ、被申請人は申請人らが昭和四〇年一〇月二日公職選挙法違反(申請人大野、同古池は昭和四〇年九月一九日施行の石川県議会議員補欠選挙に際し告示前の同月二日田中澄代外八名方を訪問、申請人大野、同福富は同月一二日福田六立外五名方を戸別訪問し法定外文書を配布したとの公訴事実)により起訴されたことを理由として、同年一〇月四日申請人らを六ヵ月間の休職処分に附し、更にその後右刑事公判が現に係属中であることを理由に昭和四一年三月二九日、同年一〇月一日、昭和四二年四月一日と右休職処分を各更新する旨の通知をした。
本申請は右各休職処分の無効を主張し、現に存する右四月一日付休職処分の効力停止と同日以降賃金の仮払を求めるものである。
二、当裁判所の判断
(一) 被保全権利について
被申請人の就業規則は刑事訴追を休職事由とし、その期間を「六ヵ月以内で係争の期間中」と定めているが、右六ヵ月以内に刑事の係争が解決しない場合、これをいかに扱うべきかについては何らの規定もしてない(規則第一九条、第二〇条)。
被申請人は右規定を単に「係争の期間中」と解し、「六ヵ月」は更新又は延長の区切りを示めしたに過ぎず、刑事係争中は繰り返し休職処分をなし得ると主張する。
然し刑事訴追を理由とする休職処分はそれ自体懲戒でなくとも労働者にとって実質上不利益な処分であることに変りはないから、各処分に関する規定をみだりに緩やかに解釈することは許されない。
刑事訴追を理由に休職に附された労働者は雇傭関係がありながら就労と賃金の支払を拒否され、然も場合によっては更に懲戒処分をも受けかねない不安定な地位にある。
してみれば労働者は右休職期間が明示的に限定され早期に右不安定な地位から脱却できることに利益を有する。
この意味において前記就業規則の「六ヵ月以内」の規定は労働者にとって一つの保護規定であるから、他に右期間の延長更新の規定もないのに本件の如く休職処分を繰り返すことは許されず、現に存する休職処分は就業規則の解釈適用を誤った無効なものというべきである。
次に被申請人の就業規則第二四条によれば休職期間が満了し復職できないときは解職されることになっているが、申請人らには復職できない事由は何もない(被申請人から解職の意思表示もない)から、申請人らは既に復職しているので就労と賃金請求の権利がある。
(二) 保全の必要性
右の如く被保全権利の疎明がある以上その保全の必要性については特に論ずる迄もなく前記の経過よりみて十分にこれを認め得る。
三、結論
よって本件申請を認容し、申請費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 井野場秀臣)
<以下省略>